私だけが消える世界で
思い出を共有することが友であることの証左である、そんな言い回しをどこかで耳にしたことがある。
「あなた誰なの?」
青春時代真っ只中の思い出を共有したはずの友人に、そんな言葉をぶつけられた彼女はどれほど辛かったろう。
「二年生の頃仲の良いグループで……」
好意を寄せる彼。その隣に居るのは私では無いけれど、彼女と一緒に居る時の彼はやっぱり楽しそうで、その笑顔を出来る限り近くで見ていたいから、彼と彼女を中心に上手くやってた。その内、彼女とも仲良くなれた。同じ人が好きだからね。
学園祭で彼が提案したおばけ屋敷も大成功だった。大切な思い出になった。
「やっぱり好きな人いるんだ。」
高校3年生の夏、私も彼も進学に向けて色々と忙しいけれど、それでも思いを伝えずにはいられなかった。
グループで「一番近くにいた」私の思いに答えられないのなら、きっと他に好きな人が居るんだろう。心当たりは全く無いけれど。彼のことはよく知っているから、彼の考えならなんとなく分かるから。
「あの、これ……」
それを手渡されるのは二度目。ああ、DVDを返しにいくんだね。映画、好きだもんね。ごめんね、ぶっきらぼうで。
「行こう?」
もしかしてあなたなら。
「忘れない?」
だってあなたは。
「埋まっていくね、パズルのピースが。」
不意に出た意地悪な言葉だった。彼には1つの意味でしか伝わらないのに。埋められているように錯覚しているだけなのに。
「俺は忘れないよ。」
あなたを忘れないよ。
「剥がしたら浮気だから!」
ちょっとした冗談で彼を笑わせて、ちょっとした冗談で私にしか分からなくなる目印をつけた。
「覚えててくれたの?」
思い出すことは出来なくても。
「時間だけは奪えないんだよ。」
信じてみようかな。この言葉に懸けてみようかな。最後のチャンスに、懸けてみたいな。
「アラームをセット!」
何度でも、今度こそ。